小児口腔機能発達不全症(しょうにこうくうきのうはったつふぜんしょう)は、食べる・話す・呼吸するといった「口の基本的な機能」が年齢相応に発達していない状態を指します。
見た目には分かりづらく、気づかれにくい症状ですが、放置すると歯並びや言葉の発達、集中力、さらには顔の形や睡眠の質にまで影響を及ぼすことがあります。
本記事では、小児口腔機能発達不全の原因や症状、診断・検査の方法、家庭や歯科医院でできるトレーニング、そして放置によるリスクについて、最新の知見に基づいて分かりやすく解説します。
子どもの口の使い方が気になっている保護者の方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
小児口腔機能発達不全とは?

「うちの子、ちゃんと噛めているかな?」「発音が遅いような気がする…」といった不安を感じたことはありませんか?
そうした何気ない違和感の背後にあるかもしれないのが、小児口腔機能発達不全症という病名です。
これは、2018年から保険診療の対象にもなっている比較的新しい概念であり、子どもの「口の使い方の発達」に問題がある状態を指します。
特に、「食べる」「話す」「呼吸する」といった基本的な機能が年齢相応に発達していない、あるいは誤った機能が定着してしまっている場合には、この病気が疑われます。
本人に自覚がないまま進行するケースも多く、見過ごされやすいのが特徴です。
ここでは、小児口腔機能発達不全症について基礎からわかりやすく解説していきます。
「口腔機能」ってなに?
「口腔機能」とは、口の中に関わる筋肉や器官を使って行う基本的な動作のことです。具体的には以下のような機能が含まれます。
- 食べ物を噛んで飲み込む(咀嚼・嚥下)
- 正確に言葉を話す(構音)
- 鼻ではなく口で呼吸してしまう癖(口呼吸)
- 唇を閉じる力(口唇閉鎖力)や舌の力(舌圧)など
これらの機能は、ただ「口を使っている」だけでは自然に育つとは限りません。
実際には、生まれてから成長とともに順序立てて「発達」していくものです。
乳児期には哺乳、次に離乳食、幼児期になると発語や会話、そして小学生になる頃には食べる・話す・呼吸するといった動作が滑らかにできるようになります。
このように、口腔機能は身体全体の発達と深く連動しており、何かひとつが滞ると歯並びだけでなく姿勢や言語発達にも影響を及ぼすことがあります。
どんな症状がある?主なサインと気づき方
小児口腔機能発達不全症の特徴は、「一見すると些細に見える」点にあります。
実際、保護者が日常で感じる“ちょっと気になるクセ”が、医療的に見ると重要なサインであることが少なくありません。
具体的には以下のような様子が見られることがあります。
- 食事に時間がかかる、よくこぼす、丸呑みしてしまう
- いつも口が開いている、口呼吸している
- 言葉が遅い、発音が不明瞭で聞き取りにくい
- 指しゃぶりや舌を出す癖が長く続いている
- 顔の筋肉が弱く、無表情または口元が緩んで見える
さらに近年の研究では、こうした症状が将来的な睡眠障害や学力低下、姿勢異常といった二次的な問題にもつながる可能性があると報告されています。
(出典:公益財団法人 8020推進財団 口腔機能発達不全症ってなぁに?)
つまり、口腔機能の発達不全は「歯や口の問題」だけではなく、「全身の成長や生活の質」に関わる重要な問題なのです。
原因とチェックポイント|なぜ起こる?何に気づけばいい?

小児口腔機能発達不全症は、決して珍しいものではなく、多くの子どもが知らず知らずのうちに発症している可能性があります。
しかしその原因は1つに限定されるものではなく、複数の要因が重なり合って起こることが多いのが特徴です。
ここでは、なぜこの症状が発生するのか、またどのような点に注意すれば早期に気づけるのかを整理して解説します。
離乳期の食習慣・姿勢・育児環境の影響
小児の口腔機能は、生まれてから徐々に発達していくものであり、特に離乳期の過ごし方がその後の口腔機能に大きな影響を及ぼします。
離乳の進め方が不適切であったり、家庭での食事姿勢や食環境が整っていない場合、咀嚼・嚥下・舌の使い方といった基本動作がうまく育ちません。
たとえば、ベビーチェアの高さが合っておらず足がぶらぶらしている状態や、背筋が丸まった姿勢での食事は、舌の動きや顎の使い方に悪影響を及ぼします。
食事中に動画視聴などの刺激が多い環境では、食べることに集中できず、噛む・飲み込むといった一連の動作が適切に練習されないこともあります。
また、スプーンの使い方一つを取っても、口に押し込むように与えてしまうと、子どもが舌をうまく使って飲み込む練習ができません。
離乳完了期(おおよそ1歳半頃)までの育児行動が、知らず知らずのうちに将来的な口腔機能の未発達につながっている可能性があるのです。
筋肉の未発達・舌や唇の使い方のクセ
口腔機能の発達において、口周りの筋肉がしっかりと成長していることは非常に重要です。
唇を閉じる力(口唇閉鎖力)や舌を動かす力(舌圧)が不足していると、食べこぼしや発音の不明瞭さ、さらには口呼吸などの症状に直結します。
たとえば、口を閉じたまま静かにしていられず、常に口が開いているような場合は、口唇の筋力が不足している可能性があります。
これは、哺乳期や離乳期にあまり口を使わずに飲み込みを行っていた場合や、やわらかい食事ばかりを摂っていた場合に起こりやすい傾向です。
口呼吸・アレルギー・口腔習癖(指しゃぶりなど)
口呼吸は、小児口腔機能発達不全を引き起こす大きな要因のひとつです。
通常、安静時には鼻呼吸をすることが望ましいとされていますが、慢性的に口が開いている状態では、口唇の筋肉が発達せず、さらに舌の位置も下がりがちになります。
この状態が長引くと、顎の成長が前後または縦方向にずれ、歯並びや顔貌の変化にもつながることがあります。
口呼吸の背景には、アレルギー性鼻炎や扁桃肥大など、医学的な原因があるケースも多く見られます。
子どもが常に鼻を詰まらせている、いびきをかいているなどの兆候がある場合は、耳鼻科と連携して治療を進める必要があります。
歯科的なアプローチだけでなく、呼吸の通り道である鼻のケアも欠かせません。
さらに見逃せないのが、指しゃぶりや舌を前に出す癖(舌突出癖)、唇や頬を噛む癖など、いわゆる「口腔習癖」です。
これらの癖は、本来あるべき舌の位置や口の使い方を阻害し、発達の妨げになります。
特に指しゃぶりは、2〜3歳頃には自然に減少するのが一般的ですが、4歳以降も続いている場合は早期に介入することが推奨されています。
診断と検査の流れ|歯科医院で何をするの?

小児口腔機能発達不全症が疑われたとき、保護者の方が最も気になるのは「実際に歯科医院ではどのようなことをするのか?」という点ではないでしょうか。
小児の口腔機能発達に関する検査や診断は、主にチェックリストと数値的な検査、そして年齢や成長段階に応じた基準をもとに総合的に判断されます。
ここでは、実際に行われる診察の流れや、評価のポイントについて順を追って解説します。
数値で見る検査|口唇閉鎖力・舌圧・咀嚼力
歯科医院では、口腔機能の状態を「見た目」や「動き」だけで判断するのではなく、数値によって定量的に評価します。
これにより、客観的に問題の有無を判断でき、成長に応じた経過観察も可能になります。
主な検査項目は、口唇閉鎖力、舌圧、咀嚼能力の3つです。
口唇閉鎖力とは、口をしっかり閉じる力のことです。専用の器具を使って、唇で器具を挟む力を測定します。
この数値が低いと、口が開いたままになりやすく、口呼吸や食べこぼし、発音の不明瞭さにつながるリスクがあります。
舌圧は、舌を上顎に押し付ける力を測る検査です。こちらも専用のセンサー付き機器を使って計測します。
舌の力が弱いと、食べ物をうまく飲み込めなかったり、正確な発音がしづらくなったりすることがあります。
咀嚼能力の検査には、専用のガムやゼリーを使い、一定時間噛んだ後の溶解度やグルコースの濃度を調べる方法が一般的です。
これにより、食べ物をどれくらいの力で、どの程度まで噛み砕けているかが分かります。
診断はどう決まる?「-1SD」ってなに?
口腔機能発達不全症の診断では、「どの程度、正常な発達から外れているか」という指標が重要です。
その際によく用いられるのが「-1SD」という基準です。
SDとは「標準偏差(Standard Deviation)」の略で、統計的に平均値からどのくらい離れているかを示す指標です。
たとえば、ある年齢の子どもにおける平均舌圧が20kPaだとすると、その標準偏差が5kPaなら、-1SDは15kPaになります。
つまり、その子の舌圧が15kPaを下回っていれば、平均よりも明らかに低いと判断されるのです。
治療とトレーニング|家でできること、歯科でできること

小児口腔機能発達不全症は、放っておくと自然には改善しにくい一方で、適切な治療やトレーニングによって多くの場合に改善が見込めます。
治療と聞くと「歯の治療」だけを思い浮かべるかもしれませんが、実際には口まわりの筋肉を育てる訓練や、呼吸・姿勢の改善を含めた幅広い対応が必要になります。
トレーニングは、歯科医院で専門的に行うものと、家庭で日常的に取り組めるものの両方があります。
大切なのは「無理なく」「継続的に」行うことです。
ここでは、機能別に効果的なアプローチ方法を紹介し、家庭でもすぐに実践できる工夫もお伝えします。
食べる機能の改善|咀嚼・嚥下のトレーニング
食べる力を育てるには、まずは子どもがしっかり「噛む」「飲み込む」ことができているかを見極めることが大切です。
たとえば、咀嚼(そしゃく)の際に左右どちらか片方の歯ばかり使っていたり、食べ物をすぐに丸飲みしてしまう場合は、咀嚼能力が十分に発達していない可能性があります。
歯科医院では、硬さや大きさの異なる食べ物を使って咀嚼力を評価し、必要に応じて「噛む力」を養うトレーニングを行います。
ガムやトレーニング食品を使った反復練習や、舌と上顎を使って押しつぶす訓練などが一般的です。
家庭でも取り組める方法としては、食材の硬さを調整し、よく噛まないと飲み込めないようなメニューを取り入れることが有効です。
たとえば、薄切りではなく少し厚みのあるにんじんを使った煮物や、弾力のある鶏肉などが適しています。
また、姿勢も重要で、足がしっかり床に着いた安定した状態で食べることが、口の筋肉を正しく使うための基本です。
話す機能の改善|構音訓練・舌の使い方の工夫
発音が不明瞭だったり、特定の音がうまく出せない場合は、構音(こうおん)機能の発達に課題がある可能性があります。
たとえば、「サ行」「ラ行」などが言いにくい、舌足らずに聞こえる、といった場合です。
このようなケースでは、舌の可動域が狭かったり、舌の位置をうまく制御できていないことが原因になっていることがあります。
歯科医院や言語聴覚士(ST)による訓練では、発音時に舌をどこに置くべきか、どのように動かすかを段階的に練習していきます。
家庭でできる練習としては、「あいうべ体操」のような口の形を意識する運動や、早口言葉遊び、発音練習カードなどを使った日常的な遊びが効果的です。
大切なのは、楽しく取り組むことと、間違っていてもすぐに正そうとせず、子どものペースで続けることです。
発音は一朝一夕には改善しませんが、継続が確かな成長につながります。
呼吸・姿勢のサポート|鼻呼吸・口輪筋トレーニング
口呼吸は、小児口腔機能発達不全の原因であると同時に、その結果としても現れやすい症状です。
口で呼吸する癖がついてしまうと、唇や頬、舌などの筋肉が適切に使われなくなり、顔の骨格や歯並びにも悪影響を及ぼします。
歯科医院では、まず鼻呼吸が物理的に可能かどうかを確認した上で、口輪筋(こうりんきん:口を閉じる力)を鍛えるトレーニングを提案します。
代表的な方法としては、ストローやスプーンを唇だけで挟んでキープする「唇はさみトレーニング」、ペットボトルキャップやガーゼを吸って引き上げる「吸引トレーニング」などがあります。
家庭でも比較的簡単にできる方法として、「あいうべ体操」や風船膨らまし、シャボン玉遊びなども効果的です。
これらはすべて、息をコントロールしながら口の筋肉を使う練習になります。また、姿勢の改善も欠かせません。
椅子に深く腰掛け、足裏が床についている状態を保つことで、舌や口の動きも安定します。
まとめ
小児口腔機能発達不全症は、成長過程において自然に解消されることもありますが、多くの場合は専門的な評価とトレーニングが必要になります。
適切なタイミングで気づき、歯科医院での診断とサポートを受けることで、将来的な歯並びや発音、呼吸・姿勢の問題を未然に防ぐことができます。
このブログを通じて、小児口腔機能発達不全の全体像を理解し、家庭での観察やセルフチェックの大切さ、そして歯科医院での対応について具体的にイメージできたのではないでしょうか。
もし少しでも気になる症状や不安がある場合は、当院へご相談ください。お子さま一人ひとりに合った最適なケアをご提案いたします。
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