スポーツを楽しむ上で、予期せぬ怪我から身を守ることは非常に重要です。
特に接触プレーが多いスポーツでは、お口周りの外傷リスクが高まります。そこで活躍するのが「マウスガード」です。
近年、スポーツにおけるマウスガードの重要性はますます認識され、多くの競技で装着が義務化されたり、強く推奨されたりしています。
しかし、「どんな種類があるの?」「どのスポーツで必要なの?」「ルールはあるの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、マウスガードに関心のある方へ向けて、基礎知識、2025年最新版の競技別ルール、歯科医院でのオーダーメイドマウスガードの作り方まで、網羅的かつ分かりやすく解説します。
安全にスポーツを楽しむための知識を深めていきましょう。
Contents
マウスガードの基礎知識

まずはじめに、マウスガードの基本的な情報について理解を深めましょう。マウスガードは、スポーツ中の衝撃から歯や顎、口内の軟組織を保護するための重要なアイテムです。
マウスガードの3つの種類
マウスガードには、主に3つのタイプがあります。それぞれ特徴や価格帯が異なりますので、ご自身の目的や使用頻度に合わせて選びましょう。
- ストックタイプ(既製品): スポーツ用品店などで手軽に入手できる、最も安価なタイプです。すでに形ができているため、購入してすぐに使用できますが、個々の歯並びに合っていないため、フィット感が悪く、ずれやすい、話しにくい、呼吸しにくいといったデメリットがあります。保護効果も限定的と言わざるを得ません。
- ボイル&バイトタイプ(お湯で成形するタイプ): ストックタイプよりはフィット感が高いタイプです。購入後、お湯で柔らかくしてから自分で噛みしめて歯型に合わせます。比較的安価で、ある程度のフィット感は得られますが、自分で成形するため、均一な厚みを保つのが難しく、噛み合わせによっては適切な保護効果が得られない可能性があります。また、繰り返し使用するうちに劣化しやすい傾向があります。
- カスタムメイドタイプ(歯科医院で製作するタイプ): 歯科医院で歯型を精密に採取し、個々の歯並びや噛み合わせ、行うスポーツの種類に合わせてオーダーメイドで製作するタイプです。最もフィット感に優れ、ずれにくく、話しやすさや呼吸のしやすさも格段に向上します。衝撃吸収性も高く、最も効果的に歯や顎を保護できます。費用は他のタイプより高くなりますが、安全性と快適性を求める方には最適な選択肢です。
マウスガードを使う目的と効果
スポーツ中に顔や顎に強い衝撃を受けると、歯が折れたり、唇や舌を切ったり、顎の骨を骨折したりする危険があります。
マウスガードは、これらの衝撃を吸収・分散させるクッションの役割を果たします。
具体的には、衝撃が加わった際に、マウスガードがそのエネルギーを受け止め、歯や顎、周囲の組織への直接的なダメージを軽減します。
また、上の歯と下の歯が直接ぶつかり合うのを防ぐことで、歯の破折リスクを低減します。
さらに、マウスガードは顎関節への衝撃を和らげ、脳への衝撃伝達を軽減する効果も期待されています。
これにより、スポーツにおける深刻な問題である脳震盪のリスクを低減する可能性が指摘されています。
衝撃吸収性に優れたカスタムメイドのマウスガードは、これらの保護効果を最大限に発揮します。
パフォーマンス・呼吸への影響
「マウスガードを着けると、息苦しくなったり、パフォーマンスが落ちたりするのでは?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、フィット感の悪いマウスガード(特にストックタイプ)は、呼吸を妨げたり、違和感から集中力を削いだりする可能性があります。
しかし、歯科医院で作製するカスタムメイドのマウスガードは、個々の口腔内に精密に適合するため、呼吸の妨げになりにくく、会話も比較的スムーズに行えます。
特に、当院では日本スポーツ歯科医学会専門医の資格を持つ院長が1つ1つ選手に合わせたマウスガードを作製しています。競技中のコミュニケーションや呼吸のしやすさについては、特に多くの選手から評価されています。
また、適切なマウスガードを装着することで、安心してプレーに集中でき、思い切ったプレーが可能になるという精神的なメリットがあります。
ただし、パフォーマンス向上効果については、個人差や競技特性による部分も大きいと考えられます。重要なのは、自分に合った、違和感の少ないマウスガードを選ぶことです。
マウスガード装着が義務付けられている競技一覧〈2025 年最新版〉

安全確保の観点から、多くのスポーツでマウスガードの装着がルールで義務化されています。ここでは、2025年時点での主な義務化競技とその規定についてご紹介します。
ただし、ルールは改定される可能性があるため、必ず所属する団体や連盟の最新情報を確認してください。
格闘技系
顔面や頭部への打撃が頻繁に起こる格闘技では、マウスガードは不可欠な防具です。
- ボクシング: プロ・アマチュア問わず、マウスガードの装着が義務付けられています。出血時に審判が確認しにくいという理由から、赤色および赤系のマウスガードの使用は禁止されていましたが、2025年4月の改定で色に関する規定が削除されました。しかし、医事ガイドラインには引き続き赤色禁止の文章が残っているため、赤系は控えるのが無難です。
- キックボクシング: 多くの団体でマウスガードの装着が義務化されています。色の規定は団体によって異なる場合があるので注意してください。
- 空手(組手): 全日本空手道連盟(JKF)の規定では、マウスガードの装着が義務付けられています。原則として透明または白色とされていますが、大会によっては異なる場合があるため、所属する流派や団体の規定を確認しましょう。
- テコンドー: WT(ワールドテコンドー)ルールでは、マウスガードの装着が義務です。色は透明または白色のみと規定されています。また厚みや設計についても細かく定められているため必ず、団体ホームページで確認をして下さい。
詳しくはこちら→ https://ajta.or.jp/ajta/referee - 総合格闘技(MMA): 打撃、投げ、寝技と多様な攻撃があるため、マウスガードは必須です。多くのプロモーション、アマチュア大会で装着が義務付けられています。色の規定は団体によって異なります。
団体コンタクト系
選手同士の接触が多い団体球技などでも、マウスガードの義務化が進んでいます。
- ラグビー: 世界ラグビーの規則では、18歳以下の全てのプレーヤー(U19カテゴリー)にマウスガードの装着が義務付けられています。 日本ラグビーフットボール協会では、これに加えて、U15カテゴリー(中学生)でも義務化、ミニラグビー(小学5・6年生)においても装着を強く推奨しています。
- アメリカンフットボール: 歯や顎への強い衝撃が頻繁に起こるため、マウスガードは必須の防具です。日本では、Xリーグや大学、高校の連盟規則で装着が義務付けられています。注意点として、白色および透明のマウスガードは、審判が装着を確認しにくい、また、怪我の際の出血が見えにくいなどの理由から、使用が禁止されています。
- ラクロス: 男子・女子ともにマウスガードの装着が義務付けられています。男女ともに色付きのマウスガードが義務であり、透明は認められていません。男子は外部から見える色、女子は白以外の色(一部透明部分があるものは可)など詳細な規定があるため、所属リーグのルールを確認してください。
- ホッケー(フィールドホッケー)・インラインホッケー: 日本ホッケー協会の規定では、中学生・高校生・大学生・社会人の全てのカテゴリーでマウスガードの装着が義務化されています。インラインホッケーにおいても、多くの大会で装着が義務または推奨されています。
- アイスホッケー: 日本アイスホッケー連盟の規定では、U-20(20歳以下)男子カテゴリーにおいて、フルフェイスガード付きヘルメットを着用していない場合に限り、マウスガードの装着が義務付けられています。その他のカテゴリーでも推奨されています。(詳細は後述)
装着が強く推奨される/年齢限定で義務付けられる競技

上記の競技以外にも、怪我のリスクが高いことからマウスガードの装着が強く推奨されたり、特定の年齢カテゴリーで義務化されたりしているスポーツがあります。
モーターバイク競技(モトクロスなど)
転倒時の衝撃は非常に大きく、顔面を強打するリスクがあります。マウスガードは歯や顎の保護に有効です。
特に出血の有無をすぐに確認できるよう、透明や白以外の色付きマウスガードが推奨されることがあります。
アイスホッケー成人女子
前述の通り、U-20男子以外では義務化されていませんが、女子選手においても接触プレーによるリスクは存在します。
特に成人女子カテゴリーでは、フェイスケージ(格子状の顔面保護具)の使用が義務付けられていないため、歯や顎を保護するマウスガードの装着、特にフィット感と保護能力の高いカスタムメイドタイプが強く推奨されています。
ラグビー小学生/アイスホッケー一部カテゴリー
ラグビーでは、小学生(ミニラグビー)の特に高学年の5・6年生で、安全のためにマウスガードの装着が強く推奨されています。
また、アイスホッケーでは、U-20男子以外のカテゴリー(U-18、U-16、U-15、U-12など)においても、フルフェイスガード付きヘルメットを着用している場合でも、さらなる安全確保のためにマウスガードの装着が推奨されています。
成長期の子供たちの歯と顎を守るために、早い段階から装着習慣をつけることが望ましいでしょう。
装着が許可されている競技(義務ではないが推奨)

義務化や強い推奨まではありませんが、接触や転倒のリスクがあり、マウスガードの装着が許可され、安全のために推奨される競技もあります。
装着を検討する際は、各競技のルール(特に色の規定)を確認しましょう。
バスケットボール
プレーヤー同士の接触が多く、肘やボールが顔に当たる事故が起こりやすいスポーツです。
歯の破折や口内の裂傷を防ぐために、マウスガードの装着が有効です。
装着する場合は、原則として透明のマウスガードが推奨されることが多いです。
高校野球
日本高等学校野球連盟(高野連)の用具規定では、マウスガードの使用が認められています。
デッドボールや接触プレー、守備時のイレギュラーバウンドなどから歯を守るために有効です。
色は透明または白色と規定されています。
柔道
組み手争いや投げられた際に、相手の体や畳に顔をぶつける可能性があります。
全日本柔道連盟の規定では、マウスガードの装着が認められています。
ただし、装着する場合は試合前に審判に申告する必要があります。色は透明または白色に限られます。
ハンドボール
激しい攻防の中で、選手同士の接触やボールが顔面に当たるリスクがあります。マウスガードはこれらの衝撃から歯や口内を保護します。
装着する場合、透明で単色のものと規定されていることが多いです。
公式ルールで必ず確認すべき5つの項目

マウスガードに関するルールは、競技や大会によって細かく定められています。
試合でペナルティを受けたり、失格になったりしないためにも、以下の5つの項目は必ず所属する連盟や大会の公式ルールで確認しましょう。
- 試合前のチェック方法: 審判が試合前にマウスガードの装着や規定適合性をどのようにチェックするのか(目視確認、提示要求など)を把握しておきましょう。
- 色・透明度の規定: 最も重要な確認事項の一つです。競技によって使用できる色(透明のみ、白のみ、色付き必須、特定の色禁止など)が厳格に定められています。違反すると試合に出られない可能性もあります。
- フィット要件: 特にカスタムメイド以外の場合、適切なフィット感が求められることがあります。例えば、「上顎の全ての歯を覆うこと」といった具体的な要件が示されている場合があります。緩すぎたり、加工しすぎて保護機能が損なわれていたりすると、使用が認められないケースもあります。
- 違反時のペナルティ: マウスガードを装着していなかったり、規定違反のマウスガードを使用したりした場合に、どのようなペナルティ(警告、一時退場、失格など)が科されるのかを確認しておく必要があります。
- 衛生管理・交換頻度に関する推奨: ルールとして明記されていることは少ないですが、マウスガードの衛生管理は非常に重要です。使用後の洗浄・乾燥方法や、適切な交換時期(劣化や変形が見られたら交換するなど)についても、ガイドラインが示されている場合があります。常に清潔な状態で使用し、定期的に交換することが推奨されます。
歯科医院で作るオーダーメイドマウスガードの作り方

安全性と快適性を最大限に高めるなら、歯科医院で製作するカスタムメイドのマウスガードが最適です。一般的な製作の流れをご紹介します。
- カウンセリング・診査:
- まず、どのようなスポーツで使用するのか、使用頻度、過去の怪我の経験などを歯科医師に伝えます。
- お口の中の状態(虫歯や歯周病の有無、歯並び、噛み合わせなど)を詳しく診査します。必要であれば、レントゲン撮影を行うこともあります。
- マウスガードの必要性や効果、種類による違い、製作の流れ、費用などについて説明を受けます。
- 歯型取り(印象採得):
- 精密なマウスガードを作るために、専用の材料を使って上下の歯型を取ります。嘔吐反射が心配な方も、リラックスして受けられるよう配慮しますのでご安心ください。
- 設計・製作:
- 採取した歯型をもとに、歯科技工士が石膏模型を作製します。
- その模型上で、行うスポーツの特性(衝撃の強さや方向など)や患者さんの希望(厚み、色、デザインなど)に合わせて、マウスガードを設計・製作します。圧迫成形などの方法で、精密にフィットするよう作られます。
- 試着・調整:
- 完成したマウスガードを実際に装着し、フィット感、噛み合わせ、喋りやすさ、呼吸のしやすさなどを確認します。
- 違和感がある場合は、その場で微調整を行います。
- 完成・取り扱い説明:
- 調整が完了したら、マウスガードをお渡しします。
- 正しい装着方法、外し方、清掃・保管方法、使用上の注意点などについて説明を受けます。
厚み・色・ロゴなどカスタマイズ可能
カスタムメイドマウスガードの大きなメリットは、様々なカスタマイズが可能な点です。
- 厚み: 行うスポーツの種類に合わせて、衝撃吸収に必要な厚みを調整できます。コンタクトの激しい競技では厚めに、比較的衝撃の少ない競技では薄めに作るなど、最適な設計が可能です。
- 色: 豊富なカラーバリエーションから、好きな色やチームカラーを選ぶことができます。競技ルールで色の規定がある場合は、それに準拠した色を選択します。ラメ入りや複数の色を組み合わせることも可能な場合があります。
- デザイン・ロゴ: 名前や背番号、チームロゴなどを入れることもできます(別途費用がかかる場合が多いです)。オリジナリティあふれるマウスガードは、モチベーションアップにもつながるでしょう。
まとめ
今回は、スポーツにおけるマウスガードの重要性、種類、効果、そして各競技における装着ルール(2025年最新情報)について詳しく解説しました。
スポーツにおける怪我は、時として選手生命に関わる重大な結果を招くこともあります。
マウスガードは、そうしたリスクを最小限に抑え、安全にスポーツを楽しむための重要なアイテムです。
特に、接触プレーの多いスポーツをされている方、お子様がスポーツをされている保護者の方は、マウスガードの装着を積極的に検討しましょう。
ご自身の歯並びや競技に合ったマウスガードについて、ぜひ一度、かかりつけの歯科医院にご相談ください。
コメント